家事と夫~おまえを嫁にもらう前に

【結婚前の夫】


 わたしは夫と結婚する前に、2年半ほど同棲していました。独り暮らしを続けたかったわたしは気が進まなかったんですが、ある日、不規則な食生活が原因で栄養失調になって倒れてしまい、
「きみが家事をできないなら、おれがする!それに一人暮らしは危ないじゃないか」
と夫が心配そうな顔で押しかけてきて、まるで雪崩のように突然の同居生活が始まった次第。
 料理の内容に偏りがあったのは確かですし、まともに家事が出来ずに身体を壊してしまったのも事実です。今思えば、あのまま夫が来てくれなかったら、本当に野垂れ死んでいたかもしれません(冗談抜きで)。
 夫は毎日のように、グリーンピースのポタージュとか、玉ねぎのスープとか、栄養バランスを考えた温かい料理をいろいろ作ってくれました。振り返ってみると、
「わたし作る人 あなた食べる人」
 という関係だったんですね……。
 そして夫は、「もし誰かが家庭で関白宣言をするなら、家事が出来るのが大前提だ。
 自分で家事ができないくせに偉そうな態度をとるのは理不尽だ」
 と真剣な表情で言い、「家事は、できる人が率先してやるべきなのだ」と強く主張していました。

【結婚後の夫】


 わたし自身は生まれついての家事オンチで、義母と同居することになっても、義母のように言われなくても自然と料理の仕方がわかるような人間には到底なれませんでした。
 一方で夫は、結婚前と比べて仕事が忙しくなり、以前のように家事に時間を割く余裕がなくなってしまい、必然的に家事の負担の大部分がわたしの身の上に降りかかってくることになりました。
 ところが不思議なことに、料理や日常的な掃除はわたしが担当することになったものの、
 洗濯物の管理や部屋の片付けは義母が引き受けてくれて、
 ゴミ出しや机の定期的なワックスがけといった力仕事は夫が担当するというように、
 家事全般がぜんぶわたしの負担になるということは避けられました。
 これは、わたしの家事の腕前があまりにもお粗末だったので、家族みんなで協力して生活を回していこうということになったのだろうと思います。
 少々、情けない気持ちになることもありますが……。

いま、わたしは非常に恵まれた環境にいて、毎日読書をして過ごしています。家事の分担が上手くいき、家族それぞれが得意な部分を担当することで、心にゆとりが生まれました。そのおかげで、以前から興味があった本をじっくりと読む時間も持てるようになりました。

平凡でも平和な生活があることの幸せ。それは、家族みんなが互いを思いやり、支え合って築き上げた日々の営みの中にこそ見出せるものなのかもしれません。


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